「裏のバイトの話:薬の実験台」    − 先生よ、マウスは人ではないぞ。 





世の中には変わったバイトがある。
今でもあるかも知れないが、昔誘われたバイトで薬の実験台というのがあった。
報酬は良い。3泊4日で10万円だった。
10万円といえば今でも結構な額だし、金欠の学生なら飛びつきたい金額だが、これは
微妙に裏側なアルバイトと言えよう。

当時の私はチキンだったし(今もだ)そこまで金銭面で追い詰められてはいなかったので、
丁重にお断りしたが、友人は果敢にも挑戦していた。あとで聞いたところによるとそのバイトを
紹介した先輩にも「紹介料」と称して2万円がバイト先から頂けたらしい。ひどい話ではないか。
※先輩がやけにしつこく私にも勧める訳だ。

ま、結局私は行かなかったので、この話は実験台となったS君が居酒屋で遠くを見つめながら、
語ってくれた話である。(ちなみに本当はバイト先から固く口止めされている)

まず、面接である。
健康である事が第一条件だ。
というか、条件はこれだけである。若く健康で、男子で人間なら合格らしい。
次に誓約書にサインをしなければならない。そこにはこう書かれている。
(副作用など如何なる事故にも請求および裁判は起こしません)
面接官はこう言ったらしい。
「形だけのサインだから、ははっ」
笑ってる場合か?まー副作用がどう出るのかを見るのが目的なのだろうがね。

ー実験開始ー

入院施設の個室のようなところに入れられたS君はまず検温や身体測定をしたあとで、
たっぷり血を抜かれた。(私が死ぬほど大嫌いな採血である)
メシは中々良いモノが出る。ヒレカツやステーキなど。もちろん無料だ。

早速夜に薬の実験台に。
何だか良くわからない琥珀色の液体をコップに半分くらい飲まされる。どうやらこれは
ユ○○ル系の健康ドリンクのようだ。いわゆる元気になる医薬品である。

飲んだ一時間後にまた採血。

朝起きてまた採血。というか健康ドリンクのおかげでS君は全く眠れなかったそうだ。

昼に再び琥珀色の液体を飲まされる。そして採血。

夜にまた液体を飲まされて採血。


このパターンが3泊4日の間ずっと続くのである。うんざりである。
S君曰く「1リットルくらい血を抜かれた」そうだ。私なんて考えただけで倒れてしまいそう。
いくら10万円貰えても僕なら絶対嫌です。いくら貧乏になってもこれだけはご勘弁を。
ただ、S君曰く、薬の効果は抜群だったらしく入院中(バイト中)はとても元気で全然、
眠れなかったそうだ。バイト終了後も丸1日は眠れなかったとか。。。
彼は3泊4日で5回オナニーしたらしい。ただ別にこれは元気になったからではなく、
単に暇で他にする事が無かったから、らしい。
ちなみに看護婦は手伝ってくれなかったそうです。(当たり前じゃ)

最後の問診で白衣の男がS君に言った。
眠れましたか?食欲は?吐き気は?気分は?などに混じってこんな質問があったそうだ。
「自慰行為は何回しましたか?」
S君はこう答えた。
「1回もしてません…」

誰だってそう答えるでしょうね。私だってそう答えるもん。
ちなみにS君はその後バイト代を3日くらいでパチンコで使ってしまったらしく、そのショックと
先輩に自分の身体を売られたショックでしばらく人間不信になってしまったそうだ。

S君は卒業後、探偵事務所に就職して我々と音信不通になったが、この職を選んだ理由の
ひとつにこの件が1枚噛んでいるような気がしてならない今日この頃である。 (完)




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